自動車の大幅な軽量化を実現する 「トポロジー最適化システム」

自動車の大幅な軽量化を実現する 「トポロジー最適化システム」ISMAでは自動車を中心とした輸送機器の大幅な軽量化を目指し、軽量材料を適材適所に使う「マルチマテリアル化」を進めています。しかし、これまでマルチマテリアル構造の設計手法は確立されていませんでした。これに対し、京都大学が開発してきた新しい「トポロジー最適化システム」をもとに、その方法のマルチマテリアル化をはかることで、誰でも簡単に最適なマルチマテリアル構造を設計できるツールの開発を進めています。
今回は、この課題を担う研究開発チームのリーダーである京都大学大学院工学研究科の西脇 眞二教授にお話を伺いました。

最適なマルチマテリアル構造が設計可能なシステムを開発

西脇教授の専門分野は、「構造最適化」です。構造最適化とは、荷重などの境界条件を与え、体積制約や剛性などの与えられた条件に対して最適な構造をコンピュータを使った数値解析により導き出す手法のことです。
構造最適化には、寸法を設計変数とする「寸法最適化」、外形形状を設計変数とする「形状最適化」、そして、トポロジー(形状と空洞)の変化を許容する「トポロジー最適化」の主に3種類があります。トポロジー最適化は構造最適化の中で最も自由度の高い手法で、1980年代に考案されました(図1)。
西脇教授は、トポロジー最適化の長所をこう説明します。「トポロジー最適化によって、自動車に不可欠な剛性などの特性を担保しながら、ボディやドアなどの部品のうち、どの部分の材料が不要であり、空洞を設けることが可能かなどを割り出すことができます。それにより、使う材料の量を大幅に減らすことができ、軽量化を図ることができるのです」
しかしながら、これまでトポロジー最適化は単一の材料のみにしか適用されてきませんでした。そこで、マルチマテリアルに適用可能なトポロジー最適化システムを開発しようというのが、ISMAにおける西脇教授の研究開発チームのミッションです。
 

図1.トポロジー最適化


図1.トポロジー最適化

構造物を構成する構造材料のうち、どの部分の材料が不要であり、空洞を設けることができるかなどを最適化によって割り出すことができる。それにより、使う材料の量を大幅に減らすことができ、軽量化を図ることが可能となる

マルチマテリアル化による固有振動数を向上できる機能なども開発

そもそもトポロジー最適化など構造最適化は、構造材料の軽量化だけでなく、熱や流体、電磁気、振動などさまざまな物理現象を対象としています。熱であれば、「できるだけ熱を拡散しやすい構造にする」、流体であれば、「できるだけ流体が配管などを通る際に失うエネルギー損失の少ない構造にする」、電磁波であれば、「できるだけ電磁波を放射できる構造にする」、振動であれば、「できるだけ振動の少ない構造にする」などです。それぞれの目的に応じて目的関数、支配方程式やパラメータを変えることで、さまざまな物理現象に対応することができるのです。
「特に自動車の場合、剛性や衝突性能に加え、走行中の振動などが大きな課題となっています。走行中の振動を低く抑えるには、それぞれの構造材料が持っている『固有振動数』を算出し、それに応じた構造にすることが重要です」と西脇教授。
マルチマテリアルの場合、それぞれの材料の持つ振動特性が異なることから、その固有振動数同士が共振することで全体の振動数が増幅する可能性がありました。また、ボディ全体に加えボディ部品に関しても、振動特性を評価したいという要望がありました。そこで、トポロジー最適化システムでは、振動特性を数値解析できる機能も新たに開発しました(図2)。これにより、材料の弾性特性や質量密度、構成比などを入力するだけで、全体の固有振動数が最も高くなるようなマルチマテリアル構造が算出できるようになりました。

 

図2.研究・開発実施体制


図2.研究・開発実施体制

西脇教授の研究開発チームでは、「基礎技術開発グループ」、「システム構築グループ」、「界面評価・モデル化グループ」、「適用可能性検討グループ」の4グループからなる研究・技術開発実施体制により、産学連携でプロジェクトを進めている

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